hitoiki/民族音楽研究会
私はある日、とある演出家と雑談をしていました。「君は音楽好きかい?」「ええ、作ります」という他愛のない雑談でした。それから私は戯曲、マクベスの劇中音楽を作ることになりました。それが僕の音楽が個人を超えたと思える、劇的な瞬間でした。後に、私が劇中音楽を作り続けるようになってから再び出会った時、彼はこう言いました。"I found him!" 私が言いたいことは、誰かに見つけてもらわないと、現れてこない人の、もしくは何かの姿がある、ということです。私は音で、それを存在させたいと思っています。私の作った曲を通じて、誰かが「誰か」を、「何か」を見つけることができたなら、それによって自由を感じてもらえたなら、うれしくおもいます。私は、あなたに見つけてもらえるでしょうか。
私は、あなたを見つけられたでしょうか。
経歴
高校在学時にギターで尾崎豊を路上で弾き語る
大学のバンドサークルでギターボーカル
演劇に興味を持ち韓国の劇団に所属
作曲、音響、照明、舞台制作、たまに俳優をする
韓国演劇ベスト3(2011)、ベスト7(2013)
青森県で漁師、三味線修行
富山県で獅子舞研究をする
インドネシアの民俗および音楽研究、ガムラン修行
ボカロ曲を作り始める
演劇音楽
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<俳優としての音>
私はマクベスのサウンドを作りました。マクベスが風に向かって語るシーン。彼は翻弄されます。風は彼を翻弄する存在として、舞台に登場します。ロー、ミドル、ハイの3つの音を、オペレーターは俳優の演技に合わせて操作しました。下の音はマクベスのモノローグで流れる曲です。マクベスの欲求を怪物の姿で舞台に立たせました。

<潜在的な音>
マクベス夫人が手を洗うシーンから、フクロウが鳴き彼女の死をマクベスが知るまで流れる音は、マクベス夫人の子守唄でした。それは彼女の表の音ではなく、裏の、台本にも書かれていない慈しみでした。彼女自身への、そしてマクベスへの祈りの歌です。この歌が途絶えた後、マクベスの有名な最後のセリフで劇は終わります。

<対立する音>
The Ugly One(邦訳:醜男)は整形手術を受けて自分とは何なのかを振り返る物語です。この中で手術を受ける前、「美しい記憶を思い出してください」と言われて入る回想シーン。私の音が入る前は、あくまで日常的演技をしていました。それを私が「ここにはこんな音楽を入れたい」と申し出たところ、皆、喜びました。回想シーンが終わってからも手術が終わるまで流れ続けるギターの音に、途中から手術の機械音が鳴り響きます。私はここに(荒く言えば)自然と人為を表現しました。

<音だけで物語る>
The Golden Dragonは5人の俳優が20人ほどのキャラクターを演じる戯曲です。保険証を持たない移民が歯を抜かれて死んだ後、最後のシーンで、その歯を拾った別の人物が歯を川に投げ落とします。水に歯が落ちる瞬間に曲が始まります。台本には何も書かれていないこの時間を、私は振り返りに使いました。物語に出てきた様々な人物の出す音を一つずつ出していきました。その人物たちが住まう建物の明かりが一つずつ消えていき、最後にはブラックアウト。

<意味を作る音>
虫歯を痛がる人物に「すぐに終わるから」と言って、歯を抜こうとする直前で終わるシーンがある。その後、別々の人物が登場する短いシーンがいくつも続きます。この転換の速さは、いったい何なのでしょうか。そのテンポに、意味はあるのでしょうか。私は、登場人物の一人であるコオロギの音に、悲しみを託しました。住民たちが住む建物に流れ込んでくるコオロギの音によって、そして部屋の扉を開けては閉めていく「観察者」の視点で、音をつくりました。喜劇的な曲を多用した劇中に、悲しみを意味作る。そんな曲になりました。
Matbeth
Writer : William Shakespeare, Director : Alexander Zeldin, Stage designer : Samal BlackThe Ugly One
Writer : Marius von Mayenburg, Director : Yun Gwang-jinThe Golden Dragon
Writer : Roland Schimmelpfennig, Director : Yun Gwang-jin, Lighting: Cho In-gon